好きになったっていいじゃない【アイナナ】R18*完結*
第4章 重なる声
「わからないならこの歌は歌えない」
「え……?」
ヘッドフォンを外して部屋から出ようとする天の腕を引っ張って引き止めてしまった。
「待って……!」
「ねぇ……キミさ」
氷のように冷たい視線が私に突き刺さるみたい。
ステージから見る優しくて可愛い天は此処にはいないんだ。
「どうしてこの歌を歌いたいって思ったの?」
「それは……」
天と一緒に仕事をしたかったのもあるけど、1番はこの曲が好きになったから。
デモテープで聴いた瞬間に恋に落ちたみたいに心が震えた。
メロディーライン、歌詞、そして
天と私の声が重なったらどんな風に仕上がるのか……
想像するだけでワクワクとしたから。
そうだ
私はこの曲に恋をしているのに、この曲を歌っていなかった。
一生懸命に音を外さないようにしていた。
違うよ、私は間違っている。
歌は技術じゃない。
心だ
私の歌声には心がなかったんだ。
「九条さん、もう一度お願いします」
頭を下げてお願いしても天は許してくれないかもしれない。
でも、どうしてももう一度歌いたい。
私の心を込めて
この曲に息を吹き込みたい。
「顔あげて」
頭上から天の冷たい声が降り注いでくる。天の怒っている顔を見るのが本当はこわい。
でも勇気を振り絞って顔をあげ天をみつめる。
私は天の作った歌が歌いたいから。