Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第34章 迷子の恋心《白布 賢二郎》
【蒼井 side】
「コラァッ!部員どもより遅く来るマネージャーがどこにあるかぁっ!!!」
『ヒィっ、すいませんすいませんすいません!ごめんなさいでしたぁ、監督ぅっ!』
「早く準備をせんか馬鹿者がッ!」
『はいっ、ただいま!』
体育館に到着早々、鬼監督の怒声が飛ぶ。うぅ恥ずかしいし怖いよぉ。コメツキバッタよろしくペコペコ頭を下げる私を、天童はなんの遠慮もなく笑い飛ばす。牛島は無言でストレッチ。
そして瀬見はというと、こっちを見て苦笑していた。うぅ、サイアク…好きな人にこんなところ見られちゃうなんて。
私は瀬見に絶賛片想い中。そして恋の叶う見込みは今のところ無し。だから少しでもポイント上げときたかったのに、この様。ちなみに、こうなったのは数分前に遡る―――――
滅多に来ない図書室に、なんとなく、ふらりと寄った。適当な棚から適当に手に取ったとある文学小説。パラリパラリとページをめくれば、こんなことが書いてあった。
"貴方が好きですと彼女は言った。
だが私の心は、既に彼の方の虜なのだ。
それでいて彼の方は私に毛頭気はない。
愛とは、誠に勝手で、一方的である。"
思わず真剣に読んでしまったその一節。確かに納得できる理由だった。片想いにせよ両想いにせよ、結局自分の想いは伝えても、そのまま帰ることはないのだ。
なんて、考えて、いけない部活なんだと慌てて本を棚に戻す。パタパタと慌ただしく図書室を後にして、私はバレー部専用の体育館へと全力で駆けた。
―――――の結果がこれである。
たった3分、遅れただけなのに。我らが監督は一分一秒たりとも遅刻を許さないのだ。
しくしく言いながら業務をこなし、泣く泣く洗濯をする。洗濯専用の部屋があると聞いたときは流石にビックリした。が、ここは超有名私立高校、そんな特別なお部屋があっても不思議じゃない。
ため息を吐き、それから黙々と作業を続ける。と、ドアの開く音がした。
「大丈夫ですか、先輩」
『わ、白布…』
そこには後輩である白布の姿。テンションだだ下がりデスガとわざとらしく言えば、珍しく爽やかに笑った。
「あれは酷かったですね。俺もう、笑うの堪えるのに精一杯でしたよ…」
…前言撤回。爽やかな顔して口から飛び出す言葉はいつもと何ら変わりませんでした。