第5章 片想い
「とりあえず、風呂入りなよ。」
部屋に入るとびしょ濡れの体にバスタオルを掛けてくれた。
「服もそんなだし…」
中村さんは、顔を背けバスルームを指さす。
「中村さん…私…」
声を発するとそれだけで涙で視界が滲む。
「無理して言わなくても良いよ…。」
そっと抱き締め、背中をさすってくれる。
「聞いて下さい…自分の中に閉じ込めたら…私…押し潰されそう…」
声を絞り出して、胸の痛みを口にする。
「好きな人の相談をされたんです。」
「ずっと好きだった人に…」
改めて口にすると、胸に張り裂けそうな痛みを感じる。
まだ受け入れられない…と心が拒否していることを実感する。
演技が出来ても、やっぱり自分の心には嘘は付けないんだな。
そう思うと、孤独感が私を支配する。
もう…私の心も体も冷え切っている。
私の中で何かが壊れた音がした。