第46章 andante
「あやめちゃん。あのね。」
「俺…」
「あやめちゃんの隣に居られる事がすごく幸せなんだ。」
「キミが笑ってくれれば、それだけで俺は嬉しい。」
「キミが泣けば、頬を伝う涙を拭いたいと思う。」
「付き合う前に言ったけど。」
「暗闇だって、二人で歩けば怖くない。」
「転んだって、二人なら一緒に立ち上がれる。」
「だからね。」
「これから先も一緒に隣を歩きたいって思うんだ。」
真剣な眼差しに目がそらせない。
いや。逸らしちゃいけない。
徐々に潤む自由の瞳。
「あやめちゃん。」
「俺の奥さんになってくれますか?」
両肩を掴まれ、頬に一筋涙の跡を残しながら私を見つめる自由。
ずっと待ってた言葉に胸が熱くなる。
「自由…」
「ずっと待ってた。」
「私を貴方の奥さんにして下さい。」
微笑むと私の頬を涙が伝う。
その涙を自由が拭ってくれる。
「俺の奥さん。」
「明日から早速、入野あやめになりませんか?」
「ちょっと自由。それは早すぎる…」
「だってあやめちゃんの気が変わらないうちに…」
「私の気持ちは変わらない。」
「今までもこれからもね。」
バラの花束を抱いた私を抱き締める自由。
押し出された空気が咽せるようなバラの香りを纏い、私の鼻腔を擽る。
シックな赤い色が街頭に照らされて、妖艶に咲き誇っているようだった。