第43章 key holder
「あのっ。入野さんですか?」
呼ばれた方向に視線を向けると、学生さん。
「あー。」
手に取った小さな花束を元の位置へ戻す。
そして、視線を少し先に移す。
この距離ならバレないかな…
もう一度、声を掛けてきた女のコに視線を戻す。
「うん。そう。」
「あのっ…ずっとファンでした。」
「ありがとう。」
「あの…」
「悪いんだけど…今、プライベートで…」
「ちょっと急いでるんだ。」
「すみません…」
「ごめんね。これからも、よろしくね。」
ニコッと笑うと、女のコも笑ってくれた。
「はい!応援してます。」
手を軽く振る。
ファンは大切にしないとね。
大きく息を吐いて自分に言い聞かせる。
さすがにファンの前で花束なんて買ったらマズいよ…。
まぁ、あやめちゃんも突然花束なんて渡されたら戸惑うしね。
はぁ…
いつか贈り物をするのに理由が要らない関係になりたい。
一度瞼を閉じ、深呼吸する。
「さて。行こうか。」
自分を奮い立たせて、小走りで少し離れたあやめちゃんの元へ向かった。