第5章 片想い
ノブ君とサヨナラして、夜道を一人歩く。
「何やってるんだろう。」
道端の植え込みの端に座る。
私は、何をしたいんだろう…
カレの事を考えるだけで胸が苦しい。
息をするのも辛い。
こんなに好きなのに…
「ノブくんは、随分酷いことするなぁ。」
自分で言って苦笑する。
太ももの上で握り締める拳。
ブーブー…
バッグの中でスマホが着信を知らせる。
『中村悠一』
待受に表示された名前をタップする。
「はい。」
「あやめ?今、良いか?」
「はい。どうしたんですか?」
「……それはこっちの台詞だけど。」
「え?」
「声が………違う。何かあった?」
「………」
「聞いてるか?先輩を甘く見るなよ。」
「あはは。中村さんには、何で分かっちゃうのかな…」
ポタンポタンと手の甲に雫が落ちる。
「うっ…ひっく…」
息が上手く出来ない。
「中村さん…助けて…苦しい…」
「あやめ…どこにいる?」
「………○○駅の…駅…前…」
「すぐに行くから待ってろ。」
ツーツー…ツーツー
私の頬には止めどなく溢れる雫。
ポタンポタン。
見上げると夜でも明るい灰色の空から雫が落ちる。
周りの人は足早に駅へと吸い込まれる。
「雨…」
私にとってはちょうど良い。
これで思う存分泣ける。
だって…どれだけ泣いたか実感しなくて済むじゃない。