第34章 moment
「ずっと一人で苦しんでいたんだね。」
薄っぺらい言葉しか出てこない自分が情けない。
髪を撫でて、頬に触れる。
「俺はね。」
「前にも言ったけど、今のあやめちゃんが好きなんだ。」
「苦しい経験も今のあやめちゃんを形作る欠片なんだよ。」
「今、こうして俺の傍にいてくれるあやめちゃん。」
「これから先、その欠片の一つに俺もなれないかな?」
「暗闇も一人で歩いたら怖いかもしれない。」
「二人だって先に進めるか分からない。」
「でもね。」
頬にそっと触れる。
「見えなくたって良い。」
「歩いてみようよ。」
「転んでも、また起き上がれば良い。」
「少しずつでも先に進もうよ。」
面と向かってじゃ、絶対に言えない。
天井を眺めて、あやめちゃんの髪を撫でる。
俺の胸元に顔を埋めて肩を震わせ泣いている。
「ありがとう…」
小さな掠れた声が聞こえた。
今は、それだけで十分だ。