第34章 moment
「大好きな人がいたの。」
「その人は、色んな人に愛されてて。」
「お仕事も何でも出来て。」
「憧れの人。」
「その人と一緒に過ごせるのが嬉しくて。」
「周りなんて何も見えてなかった。」
「うぅん。見ようとしなかったんだよね。」
「私は何も上手くいかなくて。」
「それでも、仕方ないって思ってた。」
「何も努力もしないで、逃げてた。」
「逃げて…」
「逃げて……」
「私は、その人に認められるだけで良いって…」
「自分の事しか考えられなくなってた。」
「とうとうその人の事さえ、ちゃんと見られなくなってたんだよね。」
「ある時、カレが言ったの。」
「『別れよう』って。」
「どんなに気持ちを言葉にしても、もう遅かった。」
「私がどんなに想っても、その想いは重荷にしかならない。」
「カレと離れて、ずっと苦しくて。」
「逃げるように他の人に恋してるフリをした。」
「誰かを想っていると思い込まなきゃカレを思い出してしまうから。」
「人の優しさに甘えて、カラダの関係を持ったり。」
「いつもいつも逃げてばかり。」
「あの頃と何も変わらない。」
「私は何も成長してないの。」
「自由…幻滅したでしょ?」
「私は、自由に愛させる資格なんて無いの。」
天井を眺めて、瞬きをすれば目尻から涙が落ちるのを感じる。