第29章 constellation
ちょっと感情的になる所があった。
付き合うまでは知らなかった。
どちらかと言えば大人しいコだと思っていたし。
一人で考え込む癖がある。
なるべくそうなる前に対処するようにはしてるんだけど…
思い詰めると自分でもどうしたら良いのか分からなくなるようだ。
「あやめ?話してみて。」
背中に手を当て、撫でる。
しかし、その手はすぐに祓われる。
「売れてる良平になんて分からないよ!」
膝を抱えて、小さくなって泣き始める。
またか…
こうなったら手が付けられない。
「あやめ…また発作が出るよ…。」
肩に手を掛ける。
「触らないで!」
参ったな…
小さな背中が小刻みに揺れる。
声を出さずに泣いてるんだな。
「ひっくひっくひっく」
ほら…言ったのに…
苦しそうに目を見開いて、胸を押さえる。
『過呼吸』
感情が高ぶって、泣くと必ずと言って良いくらい発症する。
最初目の当たりにしたときは焦った。
呼吸が乱れ、死んじゃうんじゃないかと本気で思った。
でも、もう対処法は分かってる。
あやめの背後に回り、強張った体を抱き締める。
上半身を俺の胸元に寄り掛からせ、気道を確保する。
手を握り、もう片方の手で胸元をさする。
「あやめ。大丈夫だよ。」
「俺の声に集中して。」
「落ち着いて。」
「呼吸は、浅く。」
血中の二酸化炭素濃度を上げないと改善されない。
「うん。そうだよ。」
「出来てる。偉いね。」
強張った手を開かせて、掌を指先で撫でる。
「大丈夫。」
「俺はここにいるよ。」
30分もすれば、落ち着く。
あぐらをかいて、そこに頭を乗せる。
汗でくっついた前髪を横に寄せて、髪を撫でる。
「良平…ごめんなさい」
「良いんだよ。」
「マネージャーにオーディションの事で色々言われちゃって…」
「ヒドいこと言って…ごめんなさい。」
「うん。ちゃんと謝ったから許してあげる。」
「でもね?これからは、一人で考え込まないで俺に言うんだよ。」
「俺は傍にいるから。」
顔を覗き込んで微笑む。
「うん…ありがとう。」
潤んだ瞳とかすんだ声でポツリと呟く。
あやめを支えてあげたい。
力になりたい。
そう思ったんだ。