第4章 reading
「触ってみます?」
奏者の方が声を掛けてくれた。
「えっと…」
「遠慮しないで、どうぞ?」
「………じゃあ。」
懐かしい糸の感触。
音階を確認して、弾ける曲を探す。
糸に触れると、自然と指が動くのが不思議。
私は夢中で筝に触れ、何も考えずに感じるままに奏でた。
~♪
全員の視線が私に向けられてる事に気づく。
「はっ!すみません!調子に乗りました…」
恥ずかしさに顔を伏せるしかない。
夢中になると周りが見えなくなる私の悪いクセ。
「いやぁ。見事だね。」
スタッフさんから声が掛かる。
「あやめ弾けるの?」
近くにいた中村さんが驚きの表情を見せる。
「えっと…少しだけ…」
「いやいや。十分弾けてたし。」
「学生の頃に、箏曲部に入ってまして。」
「十三弦しか触ったことないですけど。」
「大分前のお話です(笑)」
「いやいや。見事なお手前で。」
「爪使ってみます?」
「えっと…」
上目遣いで、近くにいた中村さんに目配せすると…
「あやめ?一曲聴かせろよ。」
お手並み拝見と言わんばかりの視線の中村さんの表情に私は大きく息を吸う。
「では…少しだけ。」
そう言って、爪を受けとり指に付ける。
「音階変えても良いですか?」
「どうぞ。」
こんな時に役に立つ絶対音感。
好きだった曲の音階に調弦し、今度は別の曲を奏でる。
中盤に差し掛かったところで…
バンッ!!!
手の甲に痛みが走った。