第19章 stole
「腰痛い…」
昨日は、ちょっとヤりすぎたかも。
腰をさすりながら、ラジオ局の廊下を歩く。
「あやめ?」
懐かしい声に振り向く。
「あ。タツ!久しぶり~。」
目の前には、鈴木達央。
黒いTシャツに多彩なペイントが沢山入ったジーンズ。
首にカーキのストールを無造作に巻く。
お洒落さん。
「おう。元気だったか?」
「うん!元気元気!」
「腰擦ってるけど、ぎっくり腰か?(笑)」
「いや。違う違う。気にしないで。」
「ふーん。」
首元に視線を感じたけど気のせいだよね。
「そうだ。今度、新曲出すんだろ?」
「あ。うん。まだ録ってないけど。」
「ふーん。どんな曲?」
「バラードだよ。まだ仕上がってないけど。」
「そっか。聴かせてくれよ?」
「うん!勿論!その時は、よろしくね。」
「んじゃ。私、収録があるから。」
手を振り、タツに背を向ける。
一歩足を踏み出すと、首にフワッとしたものが掛けられた。
視線を落とすと、さっきまでタツが首に巻いていたストール。
「ん?」
「首にキスマーク。その辺、ちゃんとして貰えよ?」
「え!?」
カバンからミラーを取り出し、首元を確認する。
くっきりと残る赤い跡。
「腰も擦るなよ~。」
廊下の角を曲がるタツが、ニヤッとしながら発する。
「もぅ!!!」
「あはははは。」
姿の見えない廊下の先からタツの笑い声が聞こえた。