第2章 名前呼び
「あ、それでね佐々木さん」
少し経って落ち着いた時、まだ頭を撫でられている私は小柴さんの腕の中で次の言葉を待つ。
「その。僕らずっと苗字で呼び合ってるから…その…」
そう。
私達は出会った頃からずっと、付き合ってもずっと、名前で呼んだことがなかった。
今更呼び直すのがなんだか照れくさくて、お互いに黙認してた。
「名前で呼び合いたい?」
問えば顔を僅かに赤らめてうつむく小柴さん。
小柴さんの顔の下に私がいるんだから、赤い顔。見えるんだけどなぁ。
やっぱり、どこか抜けてるよね。
「結婚すれば、苗字一緒…だし、うん…」
ほんとはこれも、ずっと前から言いたかったのかもね。
小さく深呼吸してから、
「りょう…くん?」
「…!」
ぱっと私と目を合わせたかと思ったらまた赤くなってうつむいた。
「くん…いらないから…」
ゴニョゴニョと、聞こえるか聞こえないかの音量で言う。
なんか、おもしろい。
「りょう。りょう。りょう〜」
「伊織」
「…!」
び、びっくりした。急に名前で呼ぶから…。
名前で呼ばれるのって、こんなに恥ずかしいものだったかな…。
今度はしっかりと目を合わせる小柴さ…涼。
動けずにいるとフワッと笑って
「好きだよ。伊織。幸せにするから…!」
「…うん!」