第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
宿すマゴイが途切れた瞬間、パンッと破裂音が響きわたった。
割れ弾けたガラス片が指に突き刺さる痛みが走り、勢いよく飛び出して行く黒いルフの姿が見え、慌てて手を伸ばしたが届かない。
扉の隙間をかいくぐって飛んで行った黒いルフは、闇の周囲に白い光をまとっていた。
光を宿す黒いルフが、高い鳴き声を上げながら空に軌跡を描き、広間に浮かぶ闇の球体めがけて飛び込んでいく。
白い矢のごとく闇の球体に突き刺さると、黒い球体が弾けるように大きく割れ裂けて、中から無数の黒いルフたちが溢れ出した。
広間に響く、おぞましい声が止んだ。
「何ごと!? 」
ざわつく従者たちの声が広間に響きわたった。
青ざめるハイリアの目の前で、壊れた闇の球体から崩れ落ちるように、ジュダルが八芒星の上に倒れ込んでいた。
横たわる彼はぴくりとも動かない。
「何が起きたのですか!? 」
「何か不純物が飛んできたようですな」
「我らの暗黒が乱されるとは! 」
「はて、先程の妙なルフはどこから……? 」
「おや……、これは……。我らではない者の気配が致しますぞ」
『銀行屋』たちが、一斉にこちらを振り返ろうとしているのがわかって、ハイリアは慌てて震える手で扉を閉めた。
重く閉ざされた扉の奥からは、いくつもの殺気を含んだ気配がする。
肌を刺すような緊張感が身を包んでいた。
けれど、膝をついてしまった身体は震えて上手く動かない。
逃げなければいけないのに、頭が真っ白だ。
手元にあった黒いルフは、なくなってしまった。
これでは扉は越えられない。戻れない。
いったい、どこに逃げればいいのだ。