第2章 プロローグ
「もう少し、こうしてよーよ」
男はもう先に行ってしまったのに…。
それとも、まだ何か気付けていないことがあるの?
見るともなしに、チャラい感じの演技を続けるアキの顔を見る。言葉とは裏腹に、顔は不機嫌なまま。器用だ…。
我が上司ながら、本当に綺麗な顔をしている。少しクセのある茶髪に、切れ長の眼。口が悪くなければ、最高なんだけど…。
「アキ…もういいでしょ?」
「じゃあ…キスしたら離してあげる」
「は?」
いけない、つい素になってしまった。
何をふざけたこと言ってるんだろう?
と思ってるうちに、本当にアキの顔が下りてくる。
「ちょっ…!」
「…いって!!」
反射的に、その顔に思いっきり平手打ち。
暗い住宅街にパシンという音が響く。
ほんとに痛かったのか、涙目になってるのを見ると、罪悪感がちょっとだけ湧いた。
「おまえはぁ…」
「そ、そんなことより仕事ですよ!」
本気で怒りだしそうなアキを慌てて制して、男が進んでいった方へ目をやる。
そこには、ただ静寂に包まれた通りがある、だけだった―――