第1章 不死コンビと賞金首
「やっとかよ!遅ぇーよ角都!」
火の国付近の公衆便所で待ちぼうけを食らった飛段はこめかみに青筋を立てて中から出てきた角都に怒鳴り散らす。
「死体の損壊が酷いと難癖を付けられてな。危うく馴染みの換金所を一つ失う所だった」
「ケッ、潰しちまえば良かったのによ」
言いながら飛段は、暁の黒い外套に付いた臭いを確かめては渋い顔をした。
「そう言うな、飛段。もし此処を潰してしまったら次からは二つ山を越えた換金所まで遠回りをする事になる。それは俺も本望では無い」
対照的に角都は先程換金した二千万両の分だけずっしりと重くなったアタッシュケースにいつもより上機嫌だった。
「…諦めるって選択肢はねーのかよ…っつーか、なんだその女?」
角都が眺めていた新しい手配帳(ビンゴブック)を覗き込む飛段。
いかつい野郎の顔が並ぶ人相書きの中では若い女というだけで目を引く。
「小物に興味は無い」
確かに掛けられた懸賞金は十万両と極悪人がひしめく賞金首の中では少額な部類だった。
「いいじゃねえか。ジャシン様への供物が毎回毎回薄汚れたジジイじゃ申し訳が立たねえ。ここらで一発、若い女の叫び声と血と魂を捧げてオレのこの信仰心をジャシン様に…」
「……勝手にしろ」
角都は手配帳の頁を一枚破いて、喚く飛段にくれてやる。
たかが十万両の為に長く無意味で退屈なジャシン教とやらの儀式を待つ事は苦痛以外の何物でもないが、飛段がへそを曲げて金にならない殺しを始めるよりはマシかと考えた結果だった。
角都の思索と妥協など露ほども知らず「そうこなきゃな!」と飛段はその澄んだ桃色の瞳を細めて笑った。