第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 智(藍姫)side ❦
「今の櫻井様ならきっと…奏月の為に動いてくださるはず」
奏月と出会い、変わった櫻井様ならば…
「はいっ」
太夫になり、少々大人になりましたね
逞しい顔付きにやんわり微笑み、頭をそっと撫でた
「負けてはなりません
櫻井様の為に…自分の為に」
「そうだよ!よぉーし、頑張ろうね!」
「ありがとうございます
藍姫様…!琥珀様…!」
琥珀と奏月が片手を重ね始め、私を見る
「え…」
じっと見つめる無垢な2人の表情にクスッと笑って
奏月の頭に乗せていた私の手をそこに持っていった
「えーっと…掛け声どうしよっか?」
「…どう致しましょう…琥珀様」
「決めていたのでは…」
「「全く」」
2人の声が見事に重なり、堪らず声を出して笑った
笑わないでよーと頬を膨らます琥珀も
きょとんとする奏月も
結局は私につられて笑って…
あぁなんと、幸せな時間
これから楼に、ルールに、逆らう行動をしようというのに
そう思ってしまう私は…太夫失格なんでしょうね
楽しい食事も終わり、各々の部屋へ戻ろうという時
聞くまでもないと思いながら確認に問いてみた
「櫻井様から…いただいてはおりませんか?
身請けのお話を」
それに奏月は
「…いただいております」
とはにかんで…
なら益々頑張らねばと琥珀と気合いを入れ直し
その日より、情報収集が始まった
「何か、喜多川様について知っておられることなどございませんか?」
あれから、この台詞を言い続けて3日
「…喜多川なぁ…知ってはいるが、うーん…」
お相手も風呂も済ませた今日何人目かの常連客に情報を求めるも、何度も見たこの反応
"知っている"それだけ
…私は何1つ掴めないでいた
「どんな些細なことでも構わないのです…
少しだけでも、お教え願えませんか?」
「うーん」
比較的温厚なこのお方なら
"知っている"から先を話して下さるのでは…
僅かながら期待していたのに、それを破る目の前の渋った顔
どうして…なぜ…
私の足りない頭でそればかりが回っていた
「何でも構いませんから…
どうか、どうか知っている限りを…私に…」
「そんな何度も…やめなさい」
制止されても尚、頭を下げ続け懇願した