第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 櫻井Side ❦
大学の日程やらなんやらで
自分のスケジュールがうまく調整できてなくて
和也の予約もままならない…
今日たまたま最後の講義が休講になったから
早く指名を取りに行こうと車を飛ばしてきたのに
「あぁもう…」
こういう時に限って捕まるんだよな…
さっきなったばかりの赤信号を睨みつける
そうしたって青に変わるわけじゃないのに
待ってる時間が惜しくて
色が変わるまで、ハンドルをトントンと指で叩きながら凝視し続けた
こんな道、使うんじゃなかった
「…おせぇよ」
青色になった信号機に八つ当たりをして車を走らせた
洋館近くのパーキングに車を止める
大学から行ってもいいよう予め後部座席に置いといたスーツに着替え、足早に洋館へ向かった
今日はどうなんだろうか
スッと指名できればいいんだけど…
「奏月は?」
洋館に入るや否や、番頭に尋ねると
「お待ちいただくことになります」
間髪いれずに返してきて
まだ入ったばっかなのに…その場で肩を落とした
「…どんな客?」
「それはお答えできません」
「そうだったな…」
個人情報ですから、何度も聞いた
「後どんくらい?」
「15分程かと」
結構あるな…
アンティークな椅子に座って終わるのをひたすら待った
特に見るもんもないけど、これくらいしかないしとスマホをいじって時々階段を見上げた
まだかまだかとその行動を数分置きに繰り返す
自分でも中々気持ち悪いやつだと思う
でも、気になって仕方がない
「じゃあな」
上からした声
下に向かって大きくなってくる足音
きっと、櫻の間が開いたんだ…
期待を胸に椅子から立ち上がった
下りてきた男はスーツを整えながら俺の横を通り過ぎ、番頭に向かっていく
なんとなく目で追って、話し始めた2人を見ていた
すると思いもがけない台詞が耳に届く