第1章 かりそめの遊艶楼
その日の夜に潤様が会いにきてくださった
「ねぇ…頬っぺた、赤いけど」
即、昼間より赤みの薄まった頬を指摘され
「転んでしまいまして…」
誤魔化すように微笑むと
潤様はパッとしないお顔をし、私の顔を覗き込んでくる
「潤様、それは…なんでしょう?」
それをうまく交わして潤様の側に置かれた箱を指差した
「あ…これ翔くんから、和也に渡してくれって
今外国に行っちゃってるからさ」
「え…櫻井様が?」
「うん、仕事の関係でね」
「和也に…」
「…両想いらしいよ、あの2人…」
目を大きく開けて潤様を見た
櫻井様と和也が…想い合ってる?
本当に…
「本当かって疑ってる?」
「え…」
読まれた…
だって
私の知ってる和也と櫻井様では、心まで結ばれるように見えなかったから
疑わずにはいられなくて…
でも…もし本当なら
ここがあったことにより出会うことが出来た2人ということに…
「俺が保証するよ」
身体だけじゃない…
遊艶楼があるのはそれだけじゃない
そうなんでしょうか…
なんて救われる
潤様…
「泣かないで…藍姫」
私の身体が潤様に包まれる
「ん…泣いてなんて、いません」
「ふふ」
温もりを感じながら鼻を啜って、大きな背中に腕を回した
「今までの翔くんとは違うトーンでね…怒鳴られちゃった」
「…怒鳴られた?」
顔を上げて潤様のお顔を見上げると
それに気付き微笑んではくれるけどなんとも悲しそうで
「…俺ね…藍姫のこと好きだよ」
私の濡れた瞳が大きく揺れた
身体の相性がいいとか顔が好きだとか
そういう事は言われてきたけど
私自身が好きというのは…なんてお返しすれば…
「分かってるよ、藍姫」
「え…」
「他に想ってる人がいるんでしょ…?」
なぜ…私の胸の内が分かってしまわれるのか
「この前、俺が一目惚れかもって言った時…
今みたいに藍姫の瞳が揺れたんだ」
思わず潤様から視線を逸らしてしまった
「…だから
想い合ってる…心が繋がってる2人に嫉妬しちゃってね
俺は藍姫と繋がれないのにって…
真剣な翔くんを茶化すような言い方しちゃった」
スマートに生きてきたはずなんだけどなと無理矢理な笑い声が聞こえてきて…
きゅっと潤様のスーツを掴んだ