第4章 溺れる夜は…Monday
❦智Side❦
俺が保育園の年中の時
母ちゃんが蒸発した
その日は夕立で
殴り付けるような雨と雷の中
こあら組の教室で
俺はお絵描きをしながら母ちゃんの迎えを待っていた
『かぁちゃん、はやくおむかえこないかな…』
延長保育の友達が次々と帰って行く
しっかりと手を繋いで教室を後にする後ろ姿が羨ましかった
心細かった
俺はとうとう教室に一人きりになってしまった
担任の先生が時々職員室に行っては戻ってきて
明らかに困り顔で
『智くん、あのね…
お母さんと連絡が取れないの
今、三鷹のおばあちゃんがお迎えに来てくれるからね』
『ばぁちゃんが?』
この時はまだ自分の身に起きている出来事の意味なんて
半分も把握しきれてなかったけど
大人達が何やら真剣な面持ちで話し合ってるのを見て
それから数日後には三鷹の家に引っ越す事になって
もう母ちゃんは帰って来ないんだという事は
なんとなく察しがついた
それから俺は
雷が嫌いになった
あの日を思い出すから
母ちゃんに捨てられたあの日を
思い出してしまうから