第1章 かりそめの遊艶楼
真っ白なシーツの海で
漂うように、揺れて
『愛してる…』
『愛しております…』
『離さない…』
『離れはしません…』
僕の中の一番奥に
翔さんの愛が
深く
深く
刻み込まれた
「もうっ! なにもこんなに沢山付けなくても、」
「悪い…ちょっと夢中になり過ぎたかな」
胸に咲いた紅い華は
翔さんの僕への愛の証
悪戯っ子のように舌を出す翔さんが可笑しくて
ぎゅうっと抱きしめた
「怒ってないか…?」
「ふふっ。 怒ってなどおりませんよ?」
なんて甘い時間
いつまでも
いつまでも
生まれたままの姿で二人、戯れていた
「和也、起きれるか?」
「はい、」
そっと手を引かれ、身体を起こすと
シーツに包まれ
そのまま窓際まで連れて行かれて
「わぁ…綺麗…」
濃紺の空に浮かぶ、黄金色の月
夜空の色も、月の色も
先程よりもずっとずっと色濃くて…
「心にも あらでうき世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな…」
「三条院か?」
「えぇ…
藍姫様が…智さんが、教えてくださったのです」
智さん
貴方様も今宵の月を
松本様とお二人で愛でていらっしゃるのでしょうか
「ホント綺麗だな…」
「こんなに美しい月を見るのは初めてです…」
「やっぱり俺、和也と見る月が一番好きだよ」
「僕も…
僕も翔さんと見る月が一番好きです」
「和也…」
「翔さん…」
「和也と見た今日のこの月を
俺はずっと忘れないよ」
「えぇ…忘れはしません…」
月明かりが僕達を照らす
2つの影が伸びる
愛しい貴方
百年先までも
共に生きよう
共に生きると
この月に誓おう…
心にも
あらでうき世に
ながらへば
恋しかるべき
夜半の月かな
恋しかるべき
夜半の月かな…
❦『かりそめの遊艷楼』〜 完 〜 ❦