第1章 かりそめの遊艶楼
「随分待たせちゃったな…」
「そんな…
そんな事はございません、」
僕を抱きしめるその腕をそっと解き
身体ごと向き合うと
翔さんの両手が僕の頬を包んだ
「改めて、言うよ
和也
俺はお前を愛してる
必ず幸せにするよ
約束する」
「翔さん…
僕も…僕も翔さんを愛しています
翔さんと出逢えて…心から幸せです…」
「俺たちは今日から家族だよ」
「家族…?」
「だって和也は俺の嫁さんだろ?」
涙が
溢れて止まらない
僕は…翔さんのお嫁さんになったんだ…
翔さんの家族に…なったんだ…
物心ついた時には
既に両親は亡くなっていて
もらわれた先では満足な食事も与えられず
身体を打たれては馬車馬のように働かされていた
学校にも通わせてもらえず
13の時に楼に売られ
部屋子として働いたあと
魅陰になる為の指南を雅紀さんから受けた
水揚げのあの日
初めて出会った貴方は
僕にとっては
ただ、ただ
怖い存在でしかありませんでした
けれど二度目にお会いした時
月を見ながら共にピアノを弾き
僕を好きだと仰ってくださいましたね
あの日から
僕は貴方に惹かれ始めました
不器用な貴方の
真っ直ぐな愛に戸惑いつつも
僕を愛おしく見つめる瞳に
心を、奪われて…
まさか
こんな日が来るなんて思ってもみなかった
温かい家族を持てるなんて
大好きな人のお嫁さんになれるなんて…
「…おいで」
翔さんに手を引かれて
連れてこられたのは別のお部屋の扉の前
「…此処は?」
「俺と和也の、夫婦の寝室だよ」
「…っ!」
カァッと身体が火照り
胸がドキドキと煩くなる
「凄い…」
見たこともない、大きなベッド
「何人寝られるんでしょう…」
「ははっ。 俺と和也しか寝ないよ?
それとも俺と二人じゃ不満か?」
ブンブンと首を横に振ると
分かってるよ、と笑って抱きしめた
「…沢山愛を育んで行こうな、和也…」
「はい…翔さん…」
「やっぱりホテルキャンセルしようか」
「えっ…?」
「今夜は此処で過ごしたくなった
今すぐ和也が欲しい…」
「僕も…翔さんが欲しいよ…」
カーテンも何も無い部屋で
月夜に照らされて
重なる指
高鳴る鼓動
僕をベッドにそっと沈めて
翔さんが囁いた
「和也の全部を俺にくれないか…?」