第43章 長い夜/S様へ
残された私とジンは目線も合わせず、重苦しい沈黙が部屋を支配する。
風呂場の方からかすかに水音が聞こえて来て、ジンは咥えていた煙草を灰皿に押し付けた。
「おい、こっちに座れ。」
自分の隣の空いたスペースを顎で指す。
見た目が若くなっていてもいつもの不遜な態度は健在で、つい言われるがまま腰を下ろす。
隣に座っては見たものの、ジンが口を開く気配はない。
再び無音が続く。
この空気に耐えきれず腰を浮かしかけたその時、ジンが大きく溜息を一つ吐いて体をこちらへ向けた。
思わず体が強張って、握りしめた左のシャツの袖に皺を作る。
「…悪かった。」
耳を疑った。
僅かに下げられた頭とジンの口から出てきた謝罪の言葉。
「サツがいるのが分かっていれば連れてなんて行かなかった。」
いつもより明らかに違った声のトーンに、こちらも戸惑ってしまう。
「病院、辞めたのもそのせいだろう。巻き込んじまって、悪かった。」
ジンの頭が更に下がる。
想定外の出来事に頭が追いつかない。
まさかあのジンが私に頭を下げるなんて。
「あ、いやでも、私も待ってろって言われたのに付いてったのが悪いし…。足引っ張ってごめん。」
雰囲気に圧倒されて私も謝罪を口にした。
するとぐっとジンの体が近づいてくる。
ソファの背に手を掛けて、お互いの瞬きの音さえ聞こえそうな距離まで顔が寄せられる。