第43章 長い夜/S様へ
(長い夜)
重要参考人として拘束されてから3日。
証拠不十分で釈放されとりあえずマンションに戻って来たものの、失ったものは大きい。
職場には辞表を出した。
これ以上迷惑はかけられないし、何より既に院内で噂は回ってしまっている。
あの環境下で平然と働けるほど私の神経は太くない。
それにジンとベルモットとウォッカ。
事情聴取やら実況見分やらこの3日は何かと忙しく、考えている暇もなかったのだが今になってじわりと目頭が熱くなる。
少しだけでも遺体を見ることができないかと安室さんに頼んでみたが、彼の答えはノーだった。
「ジンが折角あなたのためについた嘘を無駄にするんですか?僕でも庇いきれなくなってしまいますよ。」
そう言われて仕舞えば引き下がる他なかった。
お先真っ暗という言葉はこういう時にこそ使うんだな、なんてぼんやりと考えて溜息を吐きながら玄関の鍵を回す。
ゆっくりドアを開けるとすぐに異変に気が付いた。
リビングから漏れる明かりと聞こえてくる話し声。それに土間に並べられた三足の靴。
靴を脱ぎ捨ててリビングの戸を勢いよく開けた。
驚いた様子で3人が一斉にこちらを振り向く。
「な、に、これ?」
精一杯絞り出した声は上ずって掠れた酷いものだった。
「え、ジン?ベルモット?ウォッカ?なんで?死んじゃったんじゃなかったの?」
ぱたりぱたりと水滴が足元のラグを濡らしていく。
「生きてるぜ、残念ながらな。」
「私達、悪運は強い方なのよね。」
ベルモットが差し出してくれたハンカチを受け取ると、私はその場に崩れ落ちた。
喜びと不安と安堵と様々な感情が混ざり合って溢れ出る涙を止められなかった。