第25章 太陽の欠片盗難事件/キッド
(太陽の欠片盗難事件)
私の勤める病院のロビーには大きな絵が掛かっている。
院長の趣味らしいのだが、普段はそれを見上げる人などほとんどいない。
もちろん、その絵を目当てで受診する患者など私は今までに聞いたことがなかった。
それがどう言う風の吹き回しだろうか、今朝から来る患者さんが皆一様に絵を指差しては通っていく。
中にはわざわざ病室から見に来る入院患者さんも居たらしい。
「何なのあれ、何であの絵が急に注目され出したの?」
テレビ局が取材に来ていたのを見て、ついに私はその疑問を口にした。
「え、先輩知らないんすか!?」
食堂で並んで食事をとっていた後輩は、驚いた顔で目をパチクリとさせた。
「キッドですよ、怪盗キッド!あの絵を盗むって院長に予告状が届いたらしいっすよ!」
「へえ、怪盗キッドがねぇ。そんなに価値あるんだあの絵…って、キッドって絵画も盗るんだっけ?」
以前図らずもキッドと関わりを持ってしまってから、少しだけ彼について調べていた。
確かキッドは宝石以外は盗らない、とどこかの雑誌で読んだ記憶があった。
「先輩何も知らないんすねー、あの絵に太陽が描かれてるでしょ?その中心に”太陽の欠片”って名前が付いた大きな黄水晶が埋め込まれてるらしいんですよ、そいつを盗りに来るって言ってるんです。」
小馬鹿にしたような態度で味噌汁を啜る彼にイラッときて、皿に残る最後の唐揚げを私の皿に移した。
何てことするんすか!という叫び声は聞こえないふりだ。
「ああ、言われてみればガラス玉みたいなのが嵌ってるなーとは思ってたんだよね。あれ水晶だったんだ。」
唐揚げを口に放り込むと、お盆を持って立ち上がった。
「唐揚げご馳走様。あんまり先輩を馬鹿にするもんじゃないよ。」
何か言いたげな彼を尻目に食堂を後にした。