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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



「ご馳走様」


 綺麗に平らげたおはぎに合掌して、残りは落とさないようにと丁寧に包み直す。


「久々に食べたけど美味しかったなぁ(残りは明日また食べよ)」


 にへらと緩い笑みを浮かべる柚霧が、あまりに見たことのない顔で笑うからか。
 残りのおはぎに思わず伸びた傷だらけの手は、案の定すかりと実態を掴めずに空を切った。


「…俺にも寄越せェ」


 そこまで美味だと語るおはぎなら、ぜひとも食べてみたい。






























「通和散です」

「ああ、一箱で十分足りるね。残りは在庫棚に直しとくれ」

「わかりました」


 月房屋に戻り購入した通和散を一箱松風に預ける。
 この建物の遊女部屋はすべて二階から上。
 一階は管理部屋の他に台所や湯浴み場、そして数多の衣装や道具を置いておく倉庫がある。


(甘い匂いでバレたりしなかったな。よかった)


 ほっと一息つきながら、頭巾を脱いで言われた通りに通和散を在庫棚に直す。
 使いの帰りに甘味を持ち帰ろうものなら、松風に小言の一つでも言われてしまうだろう。


(一つは明日食べるとして、もう一つは姉さんに持って帰ろう)


 夏場は痛みが早いが、持ち帰れるなら姉に食べさせてやりたい。
 それまでこの小さな笹包みを何処に隠しておくべきかと、柚霧は倉庫の前で悩んだ。

 台所や倉庫は人がよく行き交う場所。
 甘味など見つかってしまえば、すぐに誰かに盗られてしまう。
 自室に置いておけば、誘惑に負けて平らげてしまうかもしれない。
 それだけは阻止したい。


(そうだ)


 あ、と顔を上げる。

 管理部屋の前の細い廊下の突き当りに、黒電話が置かれている棚があったはず。
 其処なら電話以外の使用はされず、おまけに冷暗所代わりとなる。
 小さな棚の奥にでも隠しておけば、そこにおはぎがあるなどと誰も思わないだろう。

 管理部屋の前の廊下は暗い。
 足元に躓かないようにと、忍び足に進む。
 ほんの少し開いた襖の中から溢れる灯りを頼りに、ようやく黒電話の棚を目で確認できた。


『──なぁ、見ろよこれ』


 声は、微かに溢れる灯りの隙間から届いた。


『なんだ? こりゃあ柚霧の稼ぎか』


 その名に、柚霧の足が止まる。


(…私?)

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