第37章 遊郭へ
「頸くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなぁあ」
言いながらもあやすように火傷の跡に触れる骨と皮の指。
「顔は火傷か、これなぁ。大事にしろ顔はなぁ」
「ひぐ…っひっく…」
「折角可愛い顔に生まれたんだからなぁあ」
すると兄のその優しさに応えるように、堕姫の肌は元の綺麗な白い肌へと再生していった。
そんな兄妹の様子を優しく見守る天元ではない。
妓夫太郎の存在を初めて目の当たりにした天元には理解の及ばないことだらけだったが、その鬼こそ斬るべき存在だと瞬時に理解した。
堕姫に比べて反射速度が比ではない。
十中八九、遊郭で捜していた悪鬼はあの鬼だ。
そう悟る時には妓夫太郎目掛けて第二の攻撃を振り下ろしていた。
ゆらり、と黄ばんだ妓夫太郎の目が襲い来る天元を睨み上げる。
ビチ、と皮膚を断つ嫌な亀裂音が天元の耳の奥に響いた。
「…へぇ。やるなぁ」
踏み込んだ足を更に半歩、進めた天元の動きが止まる。
その時には既に妓夫太郎の体は天元の背後に立っていた。
「攻撃止めたなぁ」
その両手には、天元と同じく二対の刃。
禍々しい赤黒く太い血管のようなものが張り巡らされた鎌を二つ、手にしていた。
「殺す気で斬ったけどなぁ」
顔を傾け、ゆらりと下から睨(ね)め上げるように振り返る。妓夫太郎のその手の鎌から、ぽたりと赤い血が滴る。
同じく振り返る天元の額当てを結んでいた布が、はらりと断ち切れた。
ばらばらと装飾の宝石が落ちる中、硬い額当てには鋭い亀裂が入っている。
左目に隈取りを施した天元の顔にを更に赤く彩るように、一筋、二筋と額から垂れ落ちてくる真紅の雫。
「いいなぁお前。いいなぁあ」
妓夫太郎の返した攻撃は、天元の額当てを割っていた。
辛うじて致命傷は避けたが、それでも頭は無傷ではいられなかった。
崩れ落ちる額当てに、銀に光る天元の髪もはらはらと解ける。
その顔を睨むように見ながら、妓夫太郎は掠れた声を上げた。
「その顔いいなぁ。肌もいいなぁ。シミも痣も傷もねぇんだなぁあ」