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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



「ふーん」


 しゃらりと、煌びやかな宝石が美麗な音を奏でる。
 顔の横で揺れるそれに引けを取らない端正な顔立ちが、屋根の上から少女を見下ろしていた。


「顔良し。年齢良し。体付きは…まぁ、あの歳だから仕方ねぇか」


 萌黄と深紅のネイルが施された手を己の顎にかけ、ふんふんと頷く様は吟味でもしているかのようだ。


(だが胡蝶の継子とありゃあ、あいつの許可を取らねぇとな……いや無理だろ)


 普段はにこにこと穏やかな笑みを常に浮かべている虫柱の胡蝶しのぶ。
 しかしその笑顔の仮面の下には、鬼に対する怒りや蝶屋敷で暮らす女子達を家族のように思っていることを知っている。

 だからなんだ。鬼殺に甘い考えなど不要だ。
 とはわかっていても、相手も同じ位である柱。許可を得るのは果てしなく無理に等しいだろう。


「ならやっぱ継子じゃねぇ女になるか…」


 胡坐を掻いて屋根の上に座ったまま、はぁとこれ見よがしな溜息を一つ。
 それ以上この場に用はないと、仕方なしに腰を上げた。


「ま。選ばなけりゃそれなりに手数はいるしな」

「成程、つまり?」

「胡蝶んとこなら他にも──…ってお前」


 流れるような問いかけについ口は滑ったが、背後に下り立つ草履の気配は察知していた。
 振り返った二m近くある体躯の男──宇随天元の目線が下がる。


「胡蝶の所の女の子が、なんでしょうか」


 立っていたのは狐面に竹笠を被った、一見すれば不審そうな姿の人物。
 その聞き慣れた声色に、表情は見えずとも仮面の下で冷ややかな笑顔を浮かべているのは安易に想像できた。
 つき合いはしのぶよりも短いが、密度で言えばしのぶよりも高い相手だ。


「なんでもアリマセンヨ。聞き耳立てんな」


 鬼殺隊に属する鬼。彩千代蛍となれば。

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