第36章 鬼喰い
月夜が明るい寅の刻。
日輪刀を握る剣士達の姿も、背中の滅の字まではっきりと照らされていた。
達筆な白字で背中を堂々と飾るはずのそれには、幾つも赤黒い血痕が飛び散っている。
「は…ッ鬼は…っ残り何体だ…ッ?」
「どうだか…っ軽く見積もっても三体はいるはずだ…ッ」
「鬼は群れない生き物じゃなかったのかよッ」
各々が背中を合わせて背後を守る。
円状に陣形を取り互いを守りながら、得物を構えていた。
しかし月夜に光る日輪刀の刃には、血の一滴もついてはいない。
隊服に飛び散る散々たる剣士達の血痕に対して、綺麗なものだった。
どうにか一体、鬼を斬り捨てた。
しかしそれも同胞の命を差し出して得た結果だ。
鬼一体倒すだけで二人の命が犠牲になった。
残り三人の剣士で、三体の鬼を相手しなければならない。
「そんなこと言ったってどうしようもないだろッ現に鬼は複数で来てるんだッ」
鬼との戦闘中で競り合った際に、手首を強く捻ってしまった。
その痛みを無視しながら、剣士──村田は強く言い放った。
「一人一体打ち倒せばいい。問題ないッ!」
木々が生い茂る森の中だが、月夜のお陰で幸いにも目は利く。
鼓舞するように村田が勇めば、二人の剣士も続いた。
「そう、だな…一体は倒せたんだ…!」
「鬼だって無敵な訳じゃないッ!」
勇む三人へと威嚇するかのように、ざわざわと周りの木々が鳴く。
呻るようなざわめきに鬼の気配を感じて、各々が日輪刀を構えた。
何処から来ても、この陣形なら死角はない。
(来るなら来い…!)
一際大きく呻る茂みに、村田がひゅぅと呼吸の初動を紡いだ。
──ボコッ
全集中は途切れてはいない。
寧ろ全神経をそこに注いでいた。
だから足元を救われたのか。
「な…ッ!?」
比喩などではない。
言葉通りに地中から飛び出した腕が、村田の足首を掴み攫ったのだ。
同胞が反応するより早く、ずるずると蛇のように長く伸びる鬼の腕に体を引っ張られる。
「なん…ッ!?」
「村田ッ!」
ようやく同胞達が手を伸ばした時には、既に逆さ吊りの状態で宙高くへと放られていた。