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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは



「あぅンッあ…! はン…ッ!」


 ちかちかと視界が光り瞬く。
 その度に快楽の波に溺れるが、杏寿郎の責めの手は止まらない。
 深く突き上げ、肌で捻じ伏せ、急所である頸に甘く喰らい付いてくる。
 与えられるがままに受け止めて、押し流されるままに喘ぎ鳴く。


「んん"…ッ!」


 ようやく責めの勢いが緩んだのは、突っ伏す蛍の嬌声が着物に埋もれて響かなくなった頃合いだった。


「はぁ…っ…蛍…」

「っ…ぁ…」


 埋もれた蛍の顔を、杏寿郎の手が後ろからゆるりと顎を掬い持ち上げる。

 緩んだ唇からぽたりと落ちる唾液がひとつ。
 されるがままに力なく掌に凭れた蛍の瞳だけが、辿るように杏寿郎を見上げた。

 火照る顔に、張り付く絹糸のような髪。
 見上げてくる流し目はじんわりと濡れて、淡い行灯に照らされ光る。

 思わずごくりと喉が鳴る。
 得も言われぬ色香を纏った蛍に、理性と本能が試されているかのようだ。

 何より目に眩しい程に映ったのは細い背中。
 陶器のようなその背が今は赤らみ、真珠のような汗粒を乗せる様はまるで熟した果実のように思えてならない。
 どうしたって触れていたくなる。

 誘われるままに汗粒に舌を這わせ背に口付ければ、杏寿郎の掌に支えられた蛍の口元が震えた。


「い、ま…気…やって…だから…」

「ん…ああ。…ゆっくりな」

「あ…っ」


 蛍の体のことなら何より熟知している。
 ただそれは杏寿郎の中で交わりを止める理由にはならなかった。
 望めるのなら一晩中だって抱いていたいのだ。

 せめてもと高みを駆けていた蛍を労わるように、優しく背に口付けを落とし続けた。
 一つ一つ、証を残していくように。

 その度に過敏な肌を震わせる蛍が愛おしくて、蜜壺に埋めたままの欲は熱を持ち続けている。
 ただここで容赦なく己の欲望で責め立てれば、息も絶え絶えな蛍の意識は暗転してしまうかもしれない。

 それは願い下げだ。
 まだその濡れた緋色の瞳の中に、映っていたい。

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