第29章 あたら夜《弐》
「千くん、おうちでお世話できる? 家事もあるし大変にならない?」
「大丈夫です。一度やってみたかったんです、僕」
「よし何回でもしよう。おねーさんに任せて」
「千寿郎。俺はこの金魚がいい」
「え? この金魚ですか?」
「うむ。鰭の優美さが一等目を惹く。蛍のようだ」
「き、杏寿郎? 何言って」
「ふふっそうですね…ではこの金魚も一緒にどうですか? 鰭と尾の先が強い赤みに染まっていて、兄上みたいです」
「俺のようか。いいな、その二匹を連れ添おう!」
「…じゃあ、私はこれ」
「む?」
「姉上も?」
「この隅っこにいる金魚、体は他の金魚より小さいけどすばしっこくて身のこなしも綺麗。おうちでよく働いてくれてる千くんみたい」
「ほう。中々に目の付けどころがある。いいな、その金魚も共にしよう!」
「ふふっなんだか家族みたいですね」
「家族、かぁ…だったらあと一匹…」
「うむ、そうだな」
「そうですね」
「「「父上/槇寿郎さんの金魚も!」」」
「…やるならさっさとやらんか…」
「いいじゃないかい、煉獄の親父さんよ。金魚すくいだけでああも楽しんでる息子を急かすなんざ、水を差すってもんよ」
「…お前も店員なら役割を全うしたらどうだ。あんな大の大人が群がっていたら、子供も近付けやしないだろう」
「はは! 違ぇねェ! ただ俺にゃあ今の杏ちゃん千ちゃんも無垢な子供みたく見えるけどなぁ?」
「……」
「あのお嬢ちゃんは杏ちゃんのお嫁さんかい? 随分と別嬪で愛らしいじゃあないか」
「…俺には関係ないことだ」