第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
自分は蛍より性経験が少ない。
それは童磨や与助に対しても同じだ。
それを打開する為にと、花街から駒澤村に帰り着き最初に行ったことは、手当たり次第にでもその類の書物を読み漁ることだった。
恥を忍んで同胞の天元や、元遊女の松風に文を送り伺ったこともある。
駒澤村にも、探せば色事の情報を買える場所がある。
時間を見つけては今まで一度も踏み入れなかったその場に足を向け、耳を傾けた。
この蕎麦屋の二階が情事に使われるものだと知ったのも、そんな経緯があったからだ。
全てはこの為だ。
自分より常に一歩先を歩む彼女の"女"たる姿を、捕まえる為に。
その身体をなし崩しにでも、自分しか見えなくする為に。
「知っているか? 蛍。前に君が後ろで感じられたのは、ここに俺のものが届いたからだ」
「っ…?」
優しく擦るように、掌が腹部を撫でる。
ひくりと、蛍の赤らむ体が過敏に反応を示した。
直腸のその先。行き止まりのように曲がりくねった後孔のそこは、蕾のように萎まり普通なら陰茎を受け付けない。
その扉を僅かにだがノックした為に、感じ得ることができた快感だ。
「だがこの先には突き抜けていない」
「そ…な、ところ、入るわけ…」
「いいや入る。その為に丹念に時間をかけて解した」
後孔だけでも、果てられるようにと。
そこに二種の稀血が予想外のところで役立った。
用意していた道具は何も必要なかったという言葉は吞み込んで、杏寿郎は細く白い腿に恭しく口付けた。
「大丈夫だ、怖くはない。だから俺の為に、"そこ"を開けてくれ」
「あッ…んな、言われて…も…んぅッ」
「力を抜け。気持ちいいと思える波に、身を任せればいい」
「ッで、も…こんな、の知らな…ッ」
ふるふると頸を横に振る蛍の切実な声に、杏寿郎の口元が緩やかに弧を描く。
(嗚呼、そうだ)
だから求めるのだ。
蛍を抱いた男達も、蛍自身も知らない。
その快楽に溺れさせる為に。
自分だけが、その快感を与えられるのだと。