第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
(柚霧の膣液か?)
愛液とは違う、さらりとした感触。
無色透明のそれは尿とも異なり、ごしりと顔を拭いながら杏寿郎は身を起こした。
「柚霧──」
性知識については、柚霧の方が心得ている。
そう振り返った杏寿郎の目に飛び込んできたのは、絶頂の余韻を残し寝たきりのままの柚霧。
その顔には、自身の放った白濁の欲が降りかかっていた。
(俺より酷い!!)
がん、と頭を殴られたような衝撃を受けて、慌てて体を反転させる。
射精直後に柚霧の口から抜け出てしまったのか。
口内と、口周りと、そして頬や顎にも滴るどろりとしたものに、焦りながらも手を伸ばした。
「すまん柚霧、君の顔を汚してしまった…っ」
「それを、言うなら私だって…すみません…」
声を荒げる杏寿郎とは異なり、ぽそぽそと漏らす柚霧の声は儚い。
絶頂の余韻故かとも思ったが、耳まで赤く染めた顔は恥じらうように杏寿郎から逸らされる。
「まさか…潮、まで…」
「しお?…そう塩辛くもないが…」
「な、舐めないで下さいっ」
「むっ」
掌に拭ったものをぺろりと舐めれば、途端に身を起こした柚霧が手首を掴んでくる。
布団の上で向き合う二つの顔は、互いの欲望で染め上げられていて。
きょとんと見合わせたそのなんとも言えない空気に、どちらからともなく笑いが漏れた。
「潮が何かはわからないが、それだけ気持ちよくなってくれたということだろう? ならば何も問題はないな」
「ええ、まぁ…でも、お顔は拭かせて下さい」
「それを言うなら柚霧こそ」
「私はいいんです。だって、自分で欲したものだから」
着物の袖で杏寿郎の顔を拭いながら、自分に付着したものは指先で掬い口へと運ぶ。
「杏寿郎さんにだって、一滴だって渡しません」
鬼であれば、精液も糧の一つとなる可能性はある。
それを思えば無理に拭い取る訳にもいかない。
しかし赤い唇に吸い込まれるように舐め取られていく己の欲を見ているのは、なんとも言いようのない気分だ。
ちゅぷり、と口に含んだ指先を抜き取る姿だけで、ぞくりと肌が期待に震える。