第37章 ネコとヘビ〜ねこま、ピンチをチャンスに〜
やっくんが抜け、芝山が入っての試合が始まった。
やっぱり狙われるのは芝山。
ここで音駒が2回目のタイムアウトをとった。
ガチガチに緊張した芝山の背中をクロがバシッと叩くと、芝山は笑みを取り戻した。
「夜久くんは…」
震える声。
横を見れば観客席の手すりを掴み俯向くあかねちゃん。
「技術があるわけじゃないの…
守備の司令塔なの…
『護りの音駒』のエースみたいな人なの。」
ぽろり
あかねちゃんの大きな瞳から涙がこぼれた。
「お兄ちゃん、絶対3年生と全国行くって言ってた。
これが最後のチャンスなのに…!」
あかねちゃんの背中が震える。
「…全国大会の1回戦。」
『…え?』
「初戦からエースが怪我で離脱。
その状態で全国制覇したチームをたまたまTVで見たことがあるよ。
感動したからよく覚えてるの。」
泣いていたあかねちゃんはその話を聞いてのそりと体を起こした。
「……春高63回大会だね…」
「あっそっ⁉︎そこまではわからないけどっ!」
『ってかあかねちゃん…そこまで覚えてるの…』
すごいっていうか尊敬する…
「あの、つまりね?」
少し動揺したアリサさん。
でも、すぐに動揺を隠し、話を続けた。
「『希望』も『可能性』もいつだってあるものよ。」
そう言って、リエーフとよく似た顔でふわりとアリサさんは笑った。
「2人とも、応援がんばろ?」
『…はい!』
「…うん!」
あかねちゃんは涙を拭き、私はいつのまにか強く握りしめていた手を緩めた。