第35章 ねことふくろう〜代表決定戦1試合目〜
「…大丈夫っすよ?」
私の背中
とんとんと幼子をあやすようにリズムよくリエーフの手が叩く。
「音駒には俺っていう大エースがいるんすよ?絶対勝ちます。」
椅子に座るリエーフは目の前の私を引き寄せ、私の胸に顔を埋めた。
『うん…勝って?』
「勝ちます。一緒に春高行きましょう?」
「だから、笑って?」
「俺だけじゃなくてみんなに笑ってて?」
「それだけで頑張れるから。」
ジャージの袖で目元をゴシゴシこする。
『も、だいじょぶ。』
そういうと抱きしめられていた腕が緩む。
背中に回されていた手はいつのまにか後頭部に回り、引き寄せられる。
キス…?
あと数センチ。
唇が触れそうなタイミング
「おーい、いちゃつくのは試合のあとにしてくれねーか?」
いつのまにか隣にいたクロ。
『わっ!ひゃっ!クロ‼︎』
「美優さん!1回!ちゅってするだけ!」
「お前だけにいい思いさせてたまるか!」
「美優…おれも…」
いつのまにか参戦するけんま。
リエーフに掴みかかる山本。
その後ろでどうしたらいいかわからなくなっている1年2人。
ため息をつく3年2人。
まさにカオス。
しょうがないな…なんて思っていれば誰かに左手を持ち上げられる。
ふにっ
何か柔らかいものが触れる感覚。
慌てて横を見れば私の手の甲に唇を寄せる福永。
福永ぁぁあ⁉︎
『福永⁈何して「「「あー‼︎‼︎‼︎」」」
周りのみんなが叫ぶ。
「福永っ!お前!」
「おまっ!天使の清らかな左手にっ!」
福永に詰め寄るクロと山本。それを止めようとする1年2人。
「美優さーん!俺ともー!」
私を抱きしめるリエーフ。
無言で私の左手の甲を着ているジャージの袖でゴシゴシこするけんま。
あんぐりと口を開けて驚くやっくん。
その隣でにこやかに微笑む海くん。
そして、無言で「駄目だった?」とでも言わんばかりに私を見つめる福永。
なんだ…
この捨て犬が「拾って…?」とでも言っているような目は…
『福永…かわい…』
赤面しながら答えると、福永もなぜか赤面。
周りは余計にわたわたしはじめ…
次負ければ春高断念というギリギリの状態なのに、その雰囲気がやけに笑えてきて思わず吹き出した。
『みんな、頑張ってね?』
そういうと、みんなはわたしを見て力強く笑った。