第17章 夏合宿、最終日。
2チームの応戦を見ていると、隣で一緒にそれを見ていたけんまがぼそり、と呟いた。
「…翔陽はいつも新しいね。」
珍しく少しだけ楽しそうな顔をしたけんまを私とクロは見逃さなかった。
「もしチビちゃんが音駒に居たらお前ももう少しヤル気出すのかね。」
挑発めいた口調でクロはけんまに問いかける。
「翔陽と一緒のチームはムリ。」
ばっさりと切り捨てるように言うけんま。しょーよーのやる気に引っ張られてくれないのかな、そう思ったのはクロも一緒のようだ。
「なんで?」
「常に新しくなっていかなくちゃ翔陽にはついていけなくなる。おれが上手にサボっても多分翔陽にはバレる。あの天才1年セッターでさえ一瞬立ち止まっただけで見抜かれた。そんなの疲れるじゃん。」
多分けんまは合宿中にあったしょーよーと影山くんの衝突のことを言ってるんだと思う。確かあの時は、3日目の午後。リエーフの調子がすこぶる良かった日。しょーよーが影山くんのトスをうまくカバーしてリエーフのブロックを避けた時だった気がする。確かしょーよーが影山くんに手を抜いたって怒ったんだ。
そりゃあ、サボったらすぐばれちゃうって言っているけんまの気持ちは分かる気がする。
「ふーん…?」
妙に納得したような声を上げた後、クロはにやりと笑ってけんまに話しかける。
「じゃあチビちゃんが敵として練習相手に居てくれたらお前もヤル気出すのか?」
けんまはすごく不思議そうな顔をしてクロを見やる。
「なんで?」
「だってお前、チビちゃんの試合見てる時、買って来た新しいゲーム始める時みたいな顔してるよ?」
ピーッ
試合開始のホイッスルが鳴り、みんなはコートに入る。
「…別にしてないし。ていうかソレどんな顔。」
「わくわく顔」
「なにソレ意味わかんない。してないし。」
「してる。」
『確かに同じ顔してる。』
私が呟くと少しだけ嫌そうな顔のけんまがこちらを向いた。
「美優まで…とりあえず試合行ってくる。」
『いってらっしゃい。』
私が手を振るとけんまは少しだけ微笑んでコートに向かって行った。