第8章 夏合宿2日目。
side黒尾
体育館から抜け出し俺の方へ近づくリエーフ。
…今1番聞きたくない奴の声。
「なんだよリエーフ。お前練習抜けだして来るんじゃねえよ。」
「美優さんは?」
俺からの注意なんて聞きもしねえでリエーフは美優のことだけを聞いて来る。ムカつく。
「お前には教えねえ。」
そう言いリエーフの横を通り過ぎる俺の肩をリエーフが掴んだ。
「美優さん心配なんです!」
「あんなに拒絶されたのに?」
後ろを振り向き手を払いのけるとリエーフは俺を睨んでいる。
「さっきあんなに嫌がられたのにな。もうおまえに近寄られたくねーってさ。」
うんざりなんだってよ。美優の口からは絶対に吐き出されない言葉を伝えるとリエーフは、は、と息を吐いた。
「…それは美優さんが言ったんですか?」
「ああ、そうだ。あいつ本人から聞いた。」
悔し紛れの嘘。こいつはどんな反応をするのだろうか。
落ち込んで諦めるか
ただひたすら追いかけるか
「……それでもそれでも俺は美優さんが好きです。だれにも渡さない。」
そう言い放った後輩の顔はちゃんと”男”の顔をしていた。
んなクソまっすぐな目で見んじゃねえよ。
俺のが先にあいつのこと好きだったんだ。
それを横からかっさらっていって…
本当に生意気な後輩だな。
「あーやめやめ。俺こんな辛気くせーの好きじゃねーんだわ。あ、さっきの嘘な?近寄られたくねーってやつ。」
俺がそういうとリエーフは少しショックを受けたような顔をして俺に突っかかってくる。
「なんすか黒尾さん!俺虐めて楽しいっすか⁉︎」
「あぁ。楽しい。」
このくらいの嘘、許せよ…
すると俺とリエーフの声が聞こえたのか夜久が体育館から顔を出す。
「おい、黒尾!リエーフ!試合始まんぞ!んなとこで話してねーで早く戻ってこいよ!」
「おう!わりーわりー。今行く。」
俺はそのまま体育館に戻り、いつもより厳しめにリエーフの稽古をつけてやった。
それくらいやってもいいだろ?
俺の好きな女かっさらっていくんだからな。