第5章 再会
「ただいま。」
父が帰って来た。
疲れきった顔で荷物を置いて母の容態を尋ねる。
問題ないと返事をし、夕飯の支度をはじめた。
母が倒れてから間もなく
父は事業に失敗し、仕事を失った。
病気の妻と、子供を抱え
先行きがみえなくなった父は
自暴自棄になり何日も酒に明け暮れた。
今はどうにか見つけた職場で働いているが、
それもいつ首を切られるかわからない
不安定なものだった。
「そうか…。なぁピーター、
去年の今頃、一緒に訪ねて泊めてもらった家を覚えているかい?」
…うん、と返す。
「実は昨日ご主人が亡くなったらしくてな。
随分お世話になったから…
明後日の葬式に行こうと思うんだが、
お前も一緒に…来てほしいんだ。」
え?と、びっくりして
包丁で指を切りそうになった。
(あのご主人が亡くなったんだ…。)
「僕も…一緒に?」
またあの少女に会える。 と
思ってしまった。
本当はずっと…気掛かりだった。
彼女は、元気だろうか
元気と言っても…あれだが
「…お母さんはどうするの?」
「妹に頼んで、いない間診てもらう約束をしてるよ。」
伯母さんがくるなら安心だと思った。
いいよ。付き合う、と返事をする。
「……ごめんな。…明日の夜に出発するから…準備しておきなさい。」
トントントンとまな板の音が響く。
(…?)
会話が終わっても、父がぼうっと
僕を見ていた。
「………ポトフ。」
「…ああ、…そうか。」
今日の父はいつになく疲れて見えた。
そしてなぜかよく分からないが、
父の“ごめんな”が
少し引っ掛かった。