第1章 「万引き」
「ふんふんふふーん♪…できた!」
「おわっ、すげえな」
「さすがカラ松ガール…フフッ」
「ひゃー…うまいねえ」
「……上手」
「うぉぉーすっげぇ!!」
「さすがだねー…くれるの?」
「うん!みんなのぶん作ったんだから!」
声の先には兄弟のように笑いあう少女と六つ子のすがたがあった。
それは、今はもう記憶から薄れた、遠い遠い…昔の話。
子)「これ、ください!」
『まいどー』
子)「さよなら!」
チリンチリーン…
ベルの音がして、お客がかえってく。
『ふぅー…あっちぃー…』
私は中村ひなた。中学二年生。ショートヘア、そして、男が苦手…。私が男が苦手なのとショートヘアなのは、関係がある。私の父が起こしたあの事件のせいだということが。もっとももう離婚したのだけれど。
あの事件が起こったのは3年前、私が五年生のとき。そのころから両親の仲は険悪だった。母が一方的になぐられるだけだったのだけど。
なぐられるのは見慣れていたし慣れていた。毎日のように暴言を吐かれ、暴力を振るわれる日々…、それが私の日常だった。
そんなある日、何が気にさわったのかいきなり髪をつかまれて…ひきちぎられた。その時母はいなかった。父は家を飛び出し出て行った。私の眼は泣くことを忘れてしまったのだろうか、涙一つ出なかった。
しばらくすると母が帰ってきて、私の姿におどろき、号泣しながら離婚を決意したようだった。その時私の心は恐怖と復讐心にむしばまれていたので気づかなかったが。
そんなトラウマもあって、私は男、とくに私より背が高い男が苦手になり、髪ももう伸ばさなくなった。
まあ昔の話だから同情はしないでほしい。もうふっきれてきたし。
まぁそんなわたしだけど、最近、男が苦手なのを何とか克服しようと思ってきた。お母さんが、「ひなたがお婿をもらって落ち着いてくれたら安心なんだけどねぇ…ふふふっ」っていうんだもん…あんな美人に笑顔で言われたらねぇ…しかもお母さんだし。安心させてあげたいな…なんて。はぁ…どうしよう…
チリンチリーン
『あ、いらっしゃーい』
お客さんがきた。なんのお客さんかって?なにをかくそう、駄菓子屋の!だから夏休みなのに店番してるんだよ!
あ、お母さん?お母さんは…
…あれ?