第8章 葛藤
「これ見て!」
開いたままだった図鑑のムギワラギクのページ。そこには花言葉も載っていた。
¨献身¨¨思い出¨¨永遠の記憶¨¨永久に¨
「で、ハルジオンがこれ」
¨追想の愛¨
………
「え、うん…だから?」
「なんか似てない?!」
いや…そこでドヤ顔をされても。
「…つまり、何。『私とおそ松くんの出会いは運命そのものだったの、キャッ(1オクターブ上)』ってわけ?」
「そ、そそそ、そこまで言ってないよ?!…や、願望はあるけど…!」
ほら、真っ赤だ。いい加減分かりやすすぎなんだよこいつ。
「あの、あのね?私自分でも恋愛脳っていうか、少女マンガ思考なのは自覚してるんだけど」
そうだったのか。てっきりド天然で無意識下の暴走なのかと。
「…今のこの恋がとっても幸せだってこと、いつまでも忘れずにずっと大切な思い出として、心の中にしまっておけたらいいな…なんて。えへへ」
「…!」
彼女が、幸せそうにはにかむ。
…なぜだか、胸が締め付けられた。
花言葉。僕にとっては占いみたいなもので、大した意味はない。
思い出なんて誰にだってあるものだ。楽しいものも、苦しいものも。
でも…
¨追想の愛¨
この言葉と、彼女の笑顔が結び付かない気がするのは、僕が幸せじゃないから?
それとも…何かの暗示だとでもいうのだろうか。
―開いた窓から吹き込む、初夏の風。
高校生になってはじめての夏は、もう目の前まで迫っていた。