第15章 涙
【鈴side】
「…これで僕の話はおしまい。どう?想像と違ってた?」
イッチー…一松くんが尋ねてくる。
けれど私は、すぐには反応できなかった。
確かに、誰もが驚く大事件があったわけじゃない。
…でも、こんなに悲しい気持ちになったのは、生まれて初めてだ。
一番悲しいのは、
かつての一松くんの気持ちを、全部は分かってあげられないこと。
話を聞いていて、もちろん辛さは伝わってきた。でも私には6つ子どころか兄弟すらいない。
¨周りと違う¨、たったこれだけのことで、様々な悪意に傷つけられる。
その恐ろしさを身を持って経験しなければ、私は彼になんの言葉もかけてあげられないのだ。
…そして、おそ松くん。
「……ねぇ、鈴。今、ものすごく後悔してるんじゃない?」
「!……私、は…」
何も、知らなかった。
知らなくて当たり前だった。
その当たり前を受け入れて、知ろうとしなかったのは…
「…おそ松兄さんはさ。本当に凄いんだよ」
「……うん」
「だから僕はこれ以上、あの人を裏切りたくない。…事の発端は全部僕だし、悪いのも全部僕だ」
「……っ…」
本当に、知ろうとしなかったのは
…おそ松くんのことだったんだ。
「…ぅ…っひっく…っ」
「…いいよ。泣きなよ」
「うぅ…っ…」
彼の優しさに、甘えていた。
彼に恋をして、付き合い始めて、幸せな時間を一緒に過ごして。
私は、彼の全てをまだ知らない。
知ろうとしなかった。
だって、
それが全てだと思っていたから。
おそ松くんはいつだって明るくて、優しくて、私を笑顔にしてくれる。
それが私にとっての、彼の姿…彼そのものだったから。
「……い、ち…まつ、くん…」
「…うん」
「ごめん、なさい…」
「…謝るなよ。鈴は何も悪くない」
「でも…っ」
「僕、明日からまた学校に行くよ。…お互い、友達のままでいよう」
とめどなく溢れる涙が、彼の顔を見えなくする。
「そうしなきゃ、僕らは…前に、進めない…だろ?」
声、震えてる…あなたも泣いてるの?