第14章 猫王子と秋模様
長距離走測定、1回目。これでもないくらいの快調で、自己新記録が出るくらいの好ペースだった。残り1周を切ったところで、最下位の奈央と2周の差が出来てしまった。
追い抜くとき、死にそうな顔をして走っている奈央の背中をポンと叩く。奈央は小さく微笑むと、拳をキュッと握り直していた。
あたしはそのままゴール。さすがに現役陸上部の長距離選手には敵わなかったけど、2位でゴールイン。自己ベスト更新だ。
『…よしっ。わっ!?』
空を仰ぎ、小さく呟いたのと同時に、視界が別の青で染まった。ふわふわの繊維が顔に触れて、溢れていた汗を吸っていく。そして、ふんわりと嗅いだことのある匂いが鼻を掠めた。この匂い…
『あ、かし…?』
タオルを顔から外し視界を取り戻した時、赤司の背中は数メートル先にあった。名前を呼んだ事で赤司が振り返る。
「タオル、使うといい。どうせ持ってきてないんだろう」
『でも赤司のじゃ…』
「僕はもう一枚持っている。だから気にせず使うといい。あ、あと…」
『?』
「文句ない走りだった。お疲れ様」
赤司はフッと表情を崩して笑うと、スタスタと歩きスタートライン手前でストレッチを始めた。
ドキッ
『っつ…』
一瞬、ほんの一瞬だけど心臓が痛かった。何だろう、今の。
女子生徒「ハァっハァっ…やっぱ早いわぁ。どんな心臓しとるん?」
『それ、あたしも気になるよ』
女子生徒「はぁ?嫌味なん?この体力バカ」
自分の心臓、自分の体なのに、あたしが一番分からないさっきの痛み。家に帰って時間があればググってみよう。