第8章 宣告
最初は突然の妊娠に戸惑ったし、経済的にも気持ち的にも不安ばっかりでちゃんと育てられる気なんて全くしなかった…それはこの時だって変わってなかった←(実は今だに不安だらけ)。
「ちゃんと子供の世話出来るのか?」とか、「ちゃんと教育とか出来るのか?」とか、他にも沢山ある。
けど、いつの間にか不安よりも「やらなきゃいけない」「やりたい」という思いが不安を凌駕していた。
凄く楽しみにしていた…。
子供に会える日を…いつの間にか心待ちにしていた…。
なのに…
異変を感じた時すぐに病院に行っていれば、結果は違っていたかもしれない。
胎動を感じなくなった時すぐに病院に行っていれば、無事に産まれてきてくれたのかもしれない。
どけだけ後悔しても、時間は巻き戻せない。
私達は一頻り泣いた後、お互い顔を洗いました。
彼氏は気を取り直そうと無理やり笑顔を作り、「明日の事聞きに行ってくる!!」と病室を出て行った。
凪(そんな無理に笑わんでもええのに……)
たぶん笑わないとやってられなかったんでしょう。
彼氏はそういう人間です。
そして私は…
凪(……歌いたい)
私は辛い時や悲しい時、怒った時などは歌う事でなんとかやり過ごしてきた。
仕事や学校の事で落ち込んでいる時、祖母と喧嘩してイライラした時、歌う事で気持ちを落ち着けた。
母と離れ離れになって暮らす事になった時も最初はずっと泣いていたけど、歌えば少し元気が出た。
歌は私の全てであり、そして元気の…命の源だ。
歌無くして、私は生きていけない。
凪(歌いたい…屋上行こ…)
以前ナースさんから病院の屋上はあまり人が来ない事を聞いていたので、よく検診の後に来て歌っていました。
病室を出て通り掛かったナースさんに「○○号室の者です。屋上に行ってきます」と言って、階段を上がっていく。
屋上に着くと案の定誰もいなかった。
病院は山の方だったので見晴らしが良く、町を見渡す事が出来る。
色んな家々の他に、沢山の桜の木が見える。
凪(もうそろそろ散ってまうな……)
少し町と桜を眺めた後、私は泣きながら歌いました。
歌に乗って、悲しみも一緒に流れてしまえばいいと思った。
【幸せからの落下】終わり