第3章 冷えた肌に温もりを<豊臣秀吉>
有無を言わせないその口調に、桜が大人しくなる。冷たく重く濡れた着物を桜の足元に落として、襦袢姿になった桜に、自分の上掛けを羽織らせた。
「とりあえず、これ着とけ。さっきお前の女中に風呂の用意を頼んでおいたから」
「…うん。ありがとう」
照れ臭そうにお礼を言う姿に頷いて、茶でも淹れてやろうと立ち上がった。
「っ…くしゅんっ」
小さなくしゃみに、茶の準備をする手が止まる。振り返ると、羽織った上掛けをぎゅっと手繰り寄せている桜の姿が目に入った。
「……桜」
「っ…秀吉?」
上掛けごと、桜の華奢な身体を背後から腕の中へ抱きしめる。まだ乾いていない、桜の髪のしっとりとした香りが鼻孔をくすぐる。
包んだ手や、顔に当たる桜の耳が驚くほど冷えていて、思わず抱きしめる腕の力が強くなってしまう。
「あったかい」
安心したように笑い、体を預けてくる桜。その顔をのぞき込んで、左手で顎を掴み自分の方へ向かせる。
「今日みたいに降ってきたら、次からは雨宿りしながら待ってろ。…俺が探しに行ってやるから」
「うん。…待ってるね」
頬を染めて、嬉しそうに頷く桜の姿が可愛くて、衝動的に口づけた。
突然のことに、桜の身体がびくりとするけれど、抵抗などはなく、そのまま受け入れている。