第3章 冷えた肌に温もりを<豊臣秀吉>
「あぁ、降ってきたな」
仕事が一段落して、文机から顔を上げれば、静かに降る冷たい雨。
今日は本当に寒くて、火鉢を置いても物足りない。
休憩がてら三成の様子でも見に行ってやるか。
そう思って部屋を出た。
「秀吉様」
呼ばれる声に振り向けば、心配そうな顔の女中が立っている。
「どうした?」
「すこし前に、桜様がお出掛けになられたのですが、まだお戻りになられないのです」
女中の言葉に思わず顔をしかめる。この寒い雨の中、何処にいる?風邪でも引いたら…。
「分かった、俺が探しにいく。風呂の準備だけしておいてくれるか」
「承知いたしました」
一礼して去っていく女中を見送り、上掛けと手拭いを用意した。無意識に早足になって、桜の部屋を一度確認しようと歩みを進める。
「…あ」
桜の部屋の手前まで来たところで、その襖が静かに閉まった。
足元を見れば、滴が落ちた跡がある。
「桜、開けるぞ」
「え」
返事を待たずに開け放った襖の向こうで、ずぶ濡れの桜が固まっている。
手にしていた手拭いで、桜の頭を包み、わしゃわしゃと拭いてやっていると、桜が小刻みに震えていることに気づいた。
「大丈夫か?寒いか」
そう問えば、小さな声で寒いと返事。
このままでは確実に風邪を引く。
桜が着ている着物を脱がしにかかると、驚いたように声をあげて。
「ひ、秀吉、自分で…」
「駄目だ…何もしないから、大人しくしてろ」