第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
「…ん」
重いまぶたを開ける。
どうしたんだっけ?
体を起こすと、かけてあった布団がずりおちた。自分で持ってきた記憶がない。周りの様子を見て、ようやく頭がはっきりしてくる。
あのまま、信長様の部屋で寝てしまったんだ…。
部屋はすっかり暗くなり、灯りもない。布団を丁寧にたたんでから立ち上がる。ふと目に入った鏡で自分の顔を見た。暗くてよく見えないが、目元の腫れはあまり引いていないようだ。
信長様の部屋は上等なだけあって、部屋の中に小さなお風呂がついていた。そこで顔を洗って、気持ちを切り替えた。
襖に手をかけてそろそろと開ける。転々とついている足元の灯りに照らされた廊下は、しんと静まり返っていて、誰もいない。
「皆、広間かな」
呟いたとき、傍の部屋から吉次が顔を出した。
「ああ、桜様。お目覚めですね」
「吉次さん」
にこにこと笑ってこちらへ向かってくる吉次の手には、部屋の明かりをともすためのろうそくが握られている。
「皆さまは広間で夕餉をお召し上がりですよ。準備いたしましょうか」