第14章 温泉旅行へ*1日目夜編*
「桜はいいんですか」
「寝かせておけ。腹が空けば起きる」
家康の言葉にそっけなく返す。あんな顔を他の男にまで見せることはないと、自室へ放り込んでおいた桜を思う。酒をあおり、先ほどまでの事を思い出す。
秀吉め、桜にあんな顔をさせおって。
腹が立ったのは事実だが、散歩の間秀吉から聞いた事情は、秀吉だけの問題ではないような気がした。そう思うと咎める気にもなれず、そのまま自分の部屋の桜の元へ向かわせたが、泣きつかれたのか眠ってしまっていたと、苦笑しながら報告してきた。
秀吉は、あの家康が気を遣うほど憔悴している。いつもの奴なら、桜が来ないのは秀吉さんのせいじゃないでしょうね、などと平気で言うところだ。
「先ほど秀吉様は、信長様とご一緒でしたね。桜様は、その頃からお休みなのでしょうか」
…三成に見られていたか。あやつはもう少し空気を読むことを覚えた方がいい。
「お前は少し黙ってろ」
家康に言われても、訳が分からないという顔をしているな。
「すみません、先に休ませて頂きます」
頷くと、ふらつきながら広間を出ていく秀吉を、皆は何も言えずに見送る。
「おい家康、お前何があったか聞いて来いよ」
「嫌ですよ。政宗さんが行けばいいでしょう」
「私が行きましょうか?」
「「いいからお前は座ってろ」」
声をそろえて三成を黙らせる二人と、ただにやりと見ている光秀。そいつらを眺めながら、自分の桜への想いは脇に置き、大事な家臣を思いため息をついた。