第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
引き止める声に気付かないふりをして、部屋を飛び出した。とにかく、少しだけ一人になりたい。
ほとんど走るように廊下を進んで、角を曲がる。何かにぶつかって、抱きとめられる感触に、人だと悟った。
「すみませんっ…あ」
「何をしている」
「の、信長様」
目が合うと、信長が、形のいい眉をひそめる。
しまった、ひどい顔を見られた。
「一人か」
「いえ…秀吉さんと一緒…でした」
「来い」
有無を言わさず、信長の腕が桜を引っ張る。一つの部屋の襖を開けて、桜をぽいと放り込む。
「きゃ…っ」
「気の済むまで、ここにいろ」
「え?あの…ここって」
「俺の部屋だ。勝手に入ってくるような奴はおらん。好きに使え。…俺は用があるから行く」
ろくに桜の言葉も聞かず、さっさと部屋を後にしてしまった。ぽかんとその場に立ち尽くす桜。
夕刻が近づき、薄暗くなってきた部屋は、桜の物よりも当然上等だった。そんなことより。
「秀吉さんに言ってきてない」
襖に手をかけようとして、止まる。