第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
桜の身体がどさりと畳に倒れる音で、失いかけていた理性が戻ってくる。手には、桜を押し倒した感覚がいまだ残っていた。
やってしまった。ついさっき、迷ったばかりだというのに。
畳についた手の間から、桜が見ている。不安と怯えが入り混じった顔。何が起こったのかよく分かっていないのか、抵抗もしない。
「悪い、桜」
「秀吉、さん…?」
覆いかぶさる桜の頬を撫で、ぽつりと謝罪を口にすれば、掠れた声で名を呼ばれる。返事の代わりに、額に口づけた。
「お前にお兄ちゃんと呼ばれるのも悪くねえが…」
次は瞼に。
「俺は男として見られたい」
次は頬に。
「お前が俺を男として見られないなら」
「あッ…」
わざと耳元で囁くように言って、耳たぶに。
「男としてしか見られないようにしてやる」
「んっ…」
唇を塞いで、全身が震える。待ち焦がれていた。胸を押す弱弱しい抵抗も、桜の染まった頬も、今の秀吉には全てが愛しい。
転ぶぞと、手を取って。よくやったと、頭に触れて。そのまま引き寄せて抱きしめて、腕の中に閉じ込めて。桜の全てを自分の物にしたいと思い始めたのはいつからだったか。