第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
「知ってたからな、お前の事が好きだって」
なんだ、そうか。ほっと胸をなでおろす。エスパー秀吉は存在していなかった、よかった。
「なあ、桜」
来い来い、と手招きされ、素直に秀吉の元まで畳を滑れば、額をピンと弾かれる。
「いたっ」
「今は悩むな。旅の間中そんな顔してたんじゃ、疲れちまう」
「う…でも私、そんなに器用じゃない…」
額をさすりながら、困ったように眉を下げる桜に苦笑する。こんな状態の桜に、自分まで想いを告げることが躊躇われた。
ただ、自分が告げなかった所で、明日の連中が躊躇することはあるまい。
「お前、俺の事どんな奴だと思ってる」
「秀吉さんのこと?うーん…大事なひと」
うっかり喜びそうになった心が、続く言葉に叩き落とされる。
「家族みたいに、大事なひとかな。お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなって思うよ」
「そうか…」
「うん、頭撫でてもらうとすごく安心するし。私のこと心配して手を握ってくれたりするのも、嬉しい」
信長様や、家康や。他の男が触れている時、多少なりとも赤くなり慌てている桜の姿を目にしたことが何度もある。
俺はその土俵にも上がれていないのだろうか。
ぷつり、と。何かが切れる音がした。