第13章 温泉旅行へ*1日目午後編*
どたどたと騒々しい足音。宿のものに渡された手拭いで桜の着物を拭いてやりながら、光秀は足音の主を待つ。
「光秀っ!!」
「来たか、秀吉」
「来たか、じゃないだろう!お前昼……」
怒りで顔をひきつらせていた秀吉が、桜を見てピタリと止まる。
「桜…」
名前を呼ばれてびくりとする姿に、秀吉はまた眉間に皺を寄せる。恐る恐るといった体で秀吉を見る桜は、着物を濡らしていて、拭き切れていない水分がぽたぽたと土間に落ちている。
「光秀、どういうことだ」
「どうもこうも…見たままだが」
「何故そういう事態になったのかを聞いてる」
まさに一触即発。光秀は飄々としているが、秀吉は今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
「秀吉さん、ごめんなさい。川で遊んでたら転んじゃって」
なんとか怒りを鎮めてもらおうと、桜が秀吉に弁解する。桜に謝られると、秀吉は弱い。
「…ったく。貸せ」
光秀から手拭いを奪い取って、桜の着物の裾をくるみしぼる。皺にならないよう直す所は、流石だ。